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(後編)「中古マンションは管理を見よう」ってどういうこと?マンション管理を研究する横浜市立大学教授の齊藤広子さんに聞いてみた_リノベを科学する

連載企画「リノベを科学する」第5回のゲストは、横浜市立大学国際教養学部教授・齊藤広子さん。今回は「マンション管理」についてお話を伺いました。中古マンションを買う際に、よく「管理を買え!」と言われますが、実際に“いい管理”を見極めるには?住んでからはどう関わればいいのか?ビギナー研究員・田形と、中堅研究員・千葉が伺いました。(後編)
(取材:リノベる。スタッフ/田形研究員、千葉研究員、文:村崎恭子)

前編はこちら▼▼

3.法改正で始まる、マンション管理の認定制度って?

田形:国がマンション管理の仕組みを改善していこうとしていると聞いたんですが、具体的にはどういう動きなのでしょうか?

齊藤:まず、2000年に「マンション管理適正化法」という法律ができました。当時は、マンションの管理について役所へ相談に行っても、役所はマンション管理のことはほとんど知らなくて。じゃあ国に相談しようとしても、マンション管理を担当する課なんてなくて、社会問題になったんです。

二人

リノベビギナー:田形 研究員、元リノベデザイナー:千葉 研究員

千葉:いざ、マンションを良い形で管理しようと住人の皆さんで考え始めたとしても相談先がわからなくて、困ってしまったわけですね。

齊藤:そう。マンションの居住者は建築知識があるわけではないから、管理を行う上で必要な情報についても“通訳”が必要なわけですよね。「それは深刻だから弁護士さんのところへ行ったほうがいいよ」「建築士に聞いてみるべきだね」と、適切な対応へ導いてくれる人がいないといけないということで、2000年に「マンション管理士」という新しい国家資格ができました。その時同時に、マンションから相談があったら国も役所もちゃんと応じましょう、という法律ができたんです。

田形:安心してマンションに暮らせるようになったのは、ここ20年の話だったんですね。

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齊藤:ところがさらに想定もしていなかったことが起きていて。今、「マンションが捨てられている」と。必要な修繕などが行われないまま放置され、ゴミが放置されたり外壁が壊れるなどする、いわゆる管理不全マンションのことですね。都市部でもこれが社会問題になってきていて、「予防」をしていく必要が出てきました。ちなみに、マンションは全戸空き家にならないと空き家対策法が使えないんですよね。空き家対策法が想定しているのは戸建て住宅なので…。

田形:なるほど。それで放置されてしまうんですね。

齊藤:朽ちていくのをそのままにしておくのは、地域に対してよくない影響を与えるということで、2020年6月にマンション管理適正化法が改正されました。

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田形:マンション管理適正化法改正によって、自治体はどういう動きをすることになったのでしょう?

齊藤:まず、国の定めた基本的な考え方をベースに、自治体ごとにマンション管理を適正に進めていくための計画を作ります。また自治体は、その計画に対して「自分たちはこういう風にやっていこう」という計画をしっかり持っている管理組合を認定できるようになりました。ある意味、頑張っているマンションとそうでないマンションをみわけることができるようになったわけです。

田形:認定を与えることによって、一般の人から見てもそのマンションの管理の質がわかりやすく、安心して買えるっていうことですね。

齊藤:わかりやすく言えば「星いくつ」っていう感じですよね。これまでは「その管理組合がいかにいい形で進んでいるか」というのを見分ける基準こそが必要なのに、それがなかったんですよ。

千葉:自治体ごとにどんな認定の特色が出るのかも興味深いですね。

齊藤:あとはいかに広げていくか、ですね。わかりやすさとか、一般消費者にどう普及していくかということは、国とか大学の先生ではどうも力不足なんですよ(笑)。やっぱり、消費者に近い、リノベるさんみたいなところに、ご指導賜らないといけないですね!

田形:いやいやそんな(笑)

千葉:今出ている認定基準の素案はリノベるでも物件を探す際に確認している内容と同等ですが、その認定制度が確立したら、国のお墨付きが添えられてお客様の中古マンションへの安心感も高まりそうです!ぜひ、広がって欲しいです!

4.共用部のバリューアップが若い世代を呼ぶ?

田形:専門家のみなさんへの取材の中で、「住み始めてから、マンションの管理に対して働きかけることだってできる」というお話をいただいていまして。すでに中古マンション購入+リノベーションをされている、私たちのお客様に対してアドバイスをいただけますでしょうか!

齊藤:まずは自身の自分のお住まいをリフォームやリノベーションをしたくなった時に、例えば「いえかるて」のように、現状の図面や今までのリフォームした際の工事内容などの履歴がしっかり残っていることが大事だと思っています。例えば、病気の履歴が書いてあるカルテも、かかりつけ医とセットだから、急に何かあっても対応してもらえて、意味がでてくるんですよね。。図面があるからこそ、継続して同じ業者、つまりホームドクターにリフォームやリノベーションをお願いする価値があるわけです。その図面や履歴を見ながらいかに素敵なアドバイスをしていけるか、が大事になってきます。自分でDIYしてもいいですし、暮らしを主体的に育てていくのに重要なツールだと思っています。

千葉:ホームドクターとは、例えば僕たちのようなリノベーション事業者ですね。そこは、ストック型社会へ移行していくために僕らができることですよね。「リノベる。」でフルリノベーションしたお住まいは、原則、リノベーション協議会のホームページにリノベーション後の図面や仕上げ表を住宅履歴情報として登録しています。お引き渡し時にお渡しする「「R1住宅適合状況報告書」にIDとパスワードが書いてありまして、お客様はいつでもを協議会のサーバにアクセスして、ダウンロードができるようにしています。引き渡してすぐに役立つものではないですが、長い目で見るととても重要ですよね!

齊藤:そうですね。そしてもう一つ重要なのは、共用部分をより豊かにしていくこと。いくら自分のお家の資産価値を上げても、宅配ボックスやオートロックなど、共用部分が一般的な水準を維持し、資産価値が上がっていかないと、中古で売ることが難しくなると思うんです。

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田形:そのために修繕積立をしっかり行い、共用部分をバリューアップしていくことが大事なわけですよね。

齊藤:でもね、高齢の住民さんに「これ以上お金を出したくない。先もそんなに長くないし、資産価値なんて上がらなくていい」とか言われるんです(笑)だから私、「そんなこと言わずに、息子さん娘さんが自分の生まれ育ったマンションを誇りに思って帰ってきたくなるマンションにしませんか?」っていつも申し上げていて。それが社会的にすごく意味があると思うんですね。親子が同じマンションの別の家に住むというのは、程よく距離を保ちながらも子育てや介護などの面でお互いに助け合えまし、緊急事態宣言の間、身近な親に子どもを預けて仕事をしていた人も多かったですよね。

千葉:親子だからこそ良い距離を保つって、大事ですよね。

齊藤:そうなんです。社会的コストも低減しますよね。最近、いいマンションは2代目が帰ってきてるんですよ。
2代目が帰ってきているというので有名なのが、板橋区の「サンシティ」ですね。2代目の居住者にインタビューすると「自分が育ってきた環境がよかったから自分もここで子育てしたいと思った」って。いいですよね〜私、この言葉すごくいいと思うんです。

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サンシティ(マップデータ©2021Google)

千葉:緑に囲まれていて、景観もよさそうです。管理組合のホームページを拝見すると、テニスコートやプールもあって、サークル活動が充実していると書いてありますね。

田形:素敵だから戻ってきたいし、そうしたら建物も長く大事に育てられる、いやぁ、まさに最高の事例ですね!素晴らしいと思います。

齊藤:高齢化に嘆くのではなく、若い世代を呼び寄せるような戦略を考えることも大事ですよね。若い人にとっても魅力あるマンションとなるように、ハードとソフト共に改善していけば、自然に若い世代が増えていきます。楽しく、豊かな暮らしを実現するために、マンションの資産価値は上がっていくということに関心を持っていただきたいんです。

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千葉:実は、リノベるのお客様が住み始めたことがきっかけで、共用部分のバリューアップが進んだマンションもいくつかあるんです。あるマンションでは複数の住戸にリノベるのお客様がいらっしゃって、そのお客様が同時に理事になるタイミングがあった時に「マンションの資産価値をあげよう!」って、耐震補強をしたり、宅配ボックスを導入して共用部をバリューアップされていましたね。

田形:リノベーションをきっかけに世代循環を後押しし、若い世代が熱心に動いておられるんですよね。リノベるのお客様発でそういう動きがあるって、すごく嬉しいです。

齊藤:今回のマンション管理適正化法の改正で、「管理の質」が見える化し、それが市場で評価されるようになれば、自分の家だけでなくマンション全体の情報もしっかり見るのが当たり前という世の中に近づくんじゃないかなと思っています。

田形:2代目が帰ってくるような取り組みや、自分たちでマンション全体を良くしていこうという取り組みをすることで、建物の長寿命化も実現できるってすばらしいですね。住む人にとっても、街にとっても、嬉しいことです!管理を通して、みんなでマンション自体をよくしていくことができる、というビジョンが明確に見えました!

齊藤:管理って、お互いが快適に暮らしていくために必要です。マンションには、共用施設っていうみんなをつなぐ「拠点」と、管理組合っていう人をつなげる「ネットワーク」があります。ですから、すごく大きな可能性があると思っています。

田形:いやぁ、前々回の小松先生、前回の田村先生と、建物の強度観点の専門家の方からも「重要なのは管理だ」という話を聞いていたからこそ、今回のお話の理解がすごく深まりました!ありがとうございました。

千葉:僕らがリノベーション事業者として今後に活かせそうなお話もたくさんありましたね。

齊藤:やっぱり「マンションに住んで本当によかったな」と思ってもらいたいですね。マンションには可能性がある。マンションは楽しいはず!!

田形:はい!リノベーションの可能性を感じることができて、本当に嬉しかったです!今日はどうもありがとうございました!!

*今回のゲストプロフィール

齊藤広子(さいとうひろこ)さん

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横浜市立大学国際教養学部教授。筑波大学第3学群社会工学類都市計画専攻卒業、不動産会社勤務を経て、大阪市立大学大学院生活科学研究科修了。博士(工学)・博士(学術)・博士(不動産学)。岐阜女子大学家政学部住居学科助教授、明海大学不動産学部教授、英国ケンブリッジ大学客員研究員を経て、2015年4月より現職。専門は不動産学、不動産マネジメント論。魅力的なすまいやまちのマネジメント手法確立の研究と実践。


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