中古を買ってリノベーションの資産性について、SUUMO編集長・池本洋一さんに聞いてみた_リノベを科学する
連載企画「リノベを科学する」第2回のゲストは、SUUMO編集長の池本洋一さん。今回は「中古を買ってリノベーション」の資産性についてお話を伺いました。
マンションは買った値段より下がるという常識が、これからは変わってくるのかも…!?
ならば、中古を買ってリノベーションはこれからの時代、かしこい選択肢になりうる…!?
SUUMO発表の数々の調査や、リノベるが中古不動産+リノベーションの住まいに対する満足度などを調査した結果を見ながら、ビギナー研究員田形と、中堅研究員千葉が、「中古を買ってリノベーションはかしこい選択肢なのか?」という疑問をとことん聞いてみました。
(取材:リノベる。スタッフ/田形 研究員、千葉 研究員、文:村崎恭子)
田形:さぁやってまいりました、「リノベを科学する」第2回です!
千葉:「リノベを科学する」は、中古住宅やリノベーションに対する不明や不安、素朴な疑問に、データを用いて専門家の方に解説いただき、わかりやすくお答えする企画です。
田形:ありがたいことに第1回の反響も続々と届いています!
千葉:さぁ、今日は「中古を買ってリノベーション」の資産性についてのお話です。ちょっと難しそうですね…。
田形:だからこそ聞くんですよ!中古+リノベーションに関心があっても、購入物件の資産性が心配でなかなか踏み切れない、という声も耳にしますしね。
千葉:そんな方へ少しでも理解につながるようなお話が聞ければいいですね!
田形:ですね!それでは池本さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします!
千葉:実は今日、私たち2人でスーモカラーのマスクで1日過ごすことで、やる気をチャージしておりました!池本さん、見えますか〜?(笑)
リノベビギナー・田形研究員、元リノベデザイナー・千葉研究員
池本:よろしくお願いします!マスクわかりますよ〜、そういうの大事!(笑)
1)中古マンションの資産性ってどうなってるの?
田形:幅広くお聞きしたいのはやまやまなのですが、今日は視点を「首都圏」に一旦絞ってお話を進めていきたいと思います!
池本:わかりました!
田形:早速ですが、「不動産の“資産性”が重視されるようになってきた」という現状についてお聞きしたいと思います。SUUMOさんの調査結果でもそういった傾向はありますか?
池本:そうですね。SUUMOでは十数年にわたって、新築分譲マンションや新築分譲一戸建を買われた方にアンケート調査をしていますが、住まいに求める要素について、「資産性」っていう項目だけは、リーマンショックの年を除いてずっと右肩上がりなんです。特に首都圏のマンションをお買い上げになる方が特異的に資産性を重んじるという傾向になっていますね。
住まいの購入理由として、「資産として有利」という購入理由が、2003年以降で最も多い。「2019年首都圏新築マンション契約者動向調査」(株式会社リクルート住まいカンパニー調べ)より抜粋
田形:なるほど、同じ新築でも一戸建よりマンションにその傾向が強い、と。中古マンション購入+リノベーションについても、各社が「資産性」にフォーカスを当てプッシュしてきたところがあると思うのですが…?
池本:僕たちはメディアで「半投半住」っていう言葉を使っていて。「半分投資、半分住宅」ですね。特に東京23区の中心部を選ぶ人に強い傾向ですけど、住宅を住むだけの“ハコ”として考えるのではなく、自分の大切な資産の投資先の一つであると捉えて家を買うというトレンドですね。このキーワードがここ10年間ぐらいずっと、リノベーションの盛り上がりと時を同じくして伸びてきているんですよ。
千葉:リノベーション業界がそこを牽引してきたということですか?
池本:いや、それはちょっとおこがましいかな(笑)どちらかというと、アベノミクス以降、新築マンションの値段が右肩上がりになっていったことで、買い替えがしやすいマーケット構造に変わってきたのを、多くの日本人が実感するようになってきたんです。
田形:と、いいますと?
池本:新築マンションの値段が高くなりすぎたために、「築古でも立地がよければ十分だ」っていう価値観が生まれたんです。中古の割安感から「これなら買える」という人たちの着地点として、中古購入+リノベーションのポジションが認められてきたと思いますね。
田形:なるほど、中古のニーズはそうやって高まってきたわけですね。
池本:今は値上がり率の高い、都心や駅に近い物件ばかりが「半投半住物件」として注目され、新築の供給もそこに集中しています。その結果、昔はよく売れた郊外の分譲マンションの供給が減っていて。すると郊外に新築の物件が少ないわけだから、買いたい人は中古を選ぶはずですよね?でも残念ながら、郊外の中古マンションが堅調にそこそこの値段で売れているわけではないんです。
千葉:確かに郊外の中古マンションが値上がりするイメージはあまりないですね…。
池本:あくまでも“新築と比べた時の割安感”で中古が認められているだけなんですよね。「新築から中古が主導になるべきだ」って、国も多くの専門家も言っているけれど、まだまだ新築に引っ張られての中古っていう位置づけなんですよね。
田形:うーん…中古の価値を高めていく必要があるわけですね。
池本:僕が「日本のリノベーションはまだまだ進化の余地があるな」って思うのはそういうところですね。アメリカやイギリスでは日本と違って「築年数が経てばむしろ上がるでしょ」っていう考え方で、実際に買った値段より高く売れている人の方が多いんですよ。本来ならそうやって、新築が建たないところでは中古がその希少性で高く売れるっていうのが、成熟した住宅マーケットのあり方だと思うんですね。そういう構造に変えることが、リノベーションマーケットの課題かなと思っています。
田形:理想的なストック型社会!欧米では実現できているんですね〜。
2)ここ数年「かしこい人が選ぶ中古マンション」って?
池本:一方、日本でも「むしろ中古の方が買いだ」という今までと少し違う考えの層も増えてきています。「地域の“一番物件”を買っておけば問題ないだろう」という視点ですね。
千葉:一番物件とは??
池本:中古だからこそ、「管理組合がしっかりしている」とか「修繕積立金をフラット化している」とか「都心なのにコミュニティが出来上がっている」みたいな情報を前もって得られるんですね。その中でも地域のフラッグシップになるような物件に資産価値を見出し買う、という動きがここ数年で目立ってきたなと感じますね。
田形:指名買い!そういう消費者が増えてきた背景には何があったのでしょうか?
池本:メディアが「駅別資産価値ランキング」みたいな特集企画をたくさん組んで、資産価値への関心度を高めていったことが大きいですね。「SUUMO新築マンション」も、「資産価値」をタイトルにすると一番手に取っていただけるんですよ。
池本:あとは、経済の右肩上がりを信じていない若年層では、「大事な資産は自分たちでしっかり考えて作っていこう」と考えて買い時を見定めたり物件の将来性を考えたりと、賢い買い方をする人が増えましたね。20年前には一部の投資家を除いてそんな人いなかったです。
田形:社会情勢によって資産価値やそれに対する考え方も変わっていくわけですね。
3)リノベーションの認知度が高まってきたのはなぜ?
田形:ところでこの10年、リノベーションの認知度についてはどう広がってきていますか?
池本:今、家の購入や住み替えを検討している人のほとんどがリノベーションという言葉を知っている時代になっていますね。調査を取り始めた当初は確か40〜50%くらいだったので、住まいの選択肢の一つとして急速に広がりましたね。
新築中古の意向って今も変わらず“新築8割中古2割”なんですが、「リノベーションは?」と聞くと、約5割の人たちがリノベーションに関心があって選択肢に入れているんですよね。
リノベーションの認知度は96.9%。関心度は52.1%で4年前の約1.8倍に。『住宅購入・建築検討者』調査(2016年度)(株式会社リクルート住まいカンパニー調べ)より抜粋
千葉:それだけリノベーションに関心を持っていただけている理由は何なんでしょう?
池本:「リノベーション」という言葉を作り、その言葉で推してきたのが大きいですね。業界のイケてる雰囲気の人が発信し「センスがいい」「新しい選択肢だ」というイメージでができて、メディア受けもよくて。「リノベーション=おしゃれ」というブランドイメージを獲得することに成功しているんですよね。
田形:イケてる人たち!前回お話を聞いた島原万丈さんもその一人ですね!
池本:あとは、「リノベーション協議会」に参加する全国の企業のみなさんが中古物件への不安を払拭できるよう取り組んできたおかげで、社会問題になるような施工不良などが起きなかったというのも大きい。国よりもかなり早い段階から、そういう“安心”の部分を事業者のみなさんが自主的にずっと取り組んできたのが奏功してるんだと思います。
4)中古+リノベーションが叶える「職住融合」って?
田形:では、これから先、中古不動産の流通はどういう形になっていくと思いますか?
池本:うーん、すごくいい質問でかつ悩ましい質問だな(笑)
先ほども言ったように、新築マンションの値段が右肩上がりになるのは、中古にとってはすごくプラスの要素なんですね。だから、右肩下がりになると結構しんどくなると思うんですよね。
千葉:今後、右肩下がりになる可能性があると…!?
池本:コロナ禍で、在宅ワークが増えましたよね。すると、会社がオフィスを縮小するような動きが出てくる可能性があるんです。今まで都心では、商業とかオフィスとかホテルとかの需要が高かったために新築マンションの供給数が減り、価格が高騰していた部分があるんです。オフィス需要が減ることで一旦落ち着く可能性がありますね。
田形:在宅ワークが増えることがそんな影響をもたらすのですね…
池本:値段が下がると消費者にとっては魅力的だと思うんですけど、買い替えローテーションが遅まるリスクがあるわけです。ただそこについては、経済の見通し次第だし、東京のオフィスの動きによりますから。あくまで不安要素というだけです。難しいって答えたのは、まだわかんないってこと(笑)
千葉:先の話ですもんね(笑)首都圏の中古マンションの成約件数が新築の成約件数を4年連続で上回っているっていう数字がありますが、それがどうなっていくのか…。
池本:その構造自体は変わらず、今後も都心部のマンションのマーケットの主役が中古+リノベーションであり続けるだろうとは思っています。買い替えだけじゃなく相続とかもあるので、中古マンションマーケットそのものがシュリンクするのは考えにくいと思いますね。
田形:ちょっと安心しました(笑)これから働き方が変わって、SUUMOさんが今年の年間キーワードとして発信している「職住融合」というのが、中古+リノベーションにはどう関係してくるのでしょうか?
池本:実は、「職住融合」のキーワードを発見したのは、僕がリノベーション業界を見つめていたからなんですよ。オーダー型リノベーションで中古物件を改変した間取りを見ると、“リビングの近くに働けるスペースをつくる”という明らかなトレンドに気がついたんです。
池本:みんなが利便性を知ってしまったので、これからはオンラインで仕事する、情報を得る、学ぶというのは不可逆ですよね。自由に間取りを作り替えられるリノベーションという選択肢は、職住融合のトレンドの発信起点でもあるし、今後そういう暮らしをしたい人たち、そういう家に住みたい人たちにとってメジャーになっていくと思います。
千葉:つまり僕たちにはこれから、職住融合を叶える提案が求められていくわけですね。
5)ズバリ、「今狙い目の中古物件」って?
田形:ここで、私たちの調査データにもご意見をいただきたいです!リノベるのお客様と、新築マンションを直近10年以内に買われた方を対象に調査したデータです。家に対する満足度のデータをご覧いただき、池本さんのフラットな目線での分析をぜひお聞きしたいです!
池本:一番下の「コスト」の項目の読み解きが悩ましいですね〜。インテリアとかデザインとかは新築に対して圧倒的な差をつけているのに、中古+リノベーションはコスパがいいはずなのに思ったほどの差が出ていないのが面白いですね。
田形:言われてみれば確かに!
池本:まだまだ日本人の価値観の根本が変わっていないんでしょうね。似たような値段だったら新築の方が資産価値が高いかもしれないって思う人たちがいるっていうことの裏返しでもあるのかなと。
千葉:この状況が今後、変わっていく可能性はありますか?
池本:例えば、表参道の新築物件と築30年物件の金額差を、10年前と現在とで見比べると、新築ももちろん高くはなっているけど、築30年物件が駅近であればどんどん値段が上がっていたりする。つまり、立地のいいところは値段が下がらないっていう、ヨーロッパとかアメリカでは当たり前のようなマーケット構造に日本もようやく近づく可能性が出てきたなって感じられるのが、この5年くらいの面白い変化だと思っていて。
田形:なるほど。そのことがもっと認知されたら、構造が変わってきそうですよね!
池本:「好立地の築古はもう下がらない」という共通認識があれば、もっともっとコスパの良さを強く支持する人たちが増えてくると思います。ただ、まだまだ半信半疑に感じる人が多いと思うので、どうやってマーケットを醸成していくかというのは重要ですね。僕も今、メンバーに向けて「編集長講座」っていう家の買い方講座をやっています。
田形・千葉:え〜!面白そう!!
池本:そこでもよく「築古のピン立地はまだ買いだよ」と言っているんです。でも、それに気付き始めた人が結構増えてきちゃって…。
田形:えっ!この記事出すのやめておきましょうか(笑)
池本:いやいや、まだニューヨークとかロンドンみたいになってないから(笑)
田形:そこまで成熟してないから大丈夫ですかね!
池本:今、郊外中核都市の駅近においても、少しずつそういう価値観が生まれ始めていますね。浦和もそうですし、立川とか、東急の閑静な住宅街…緑ヶ丘とか奥沢の駅近マンションの築古とかが狙い目だと個人的には思っています。都心部はみんなが目を向け始めて上がっちゃったので…ってごめんなさい、データの分析のはずが「何が買いですか?」という話に変わっちゃってますけど(笑)
田形:いえいえ、みんなが知りたいプラスの情報ですから!大丈夫です(笑)
池本:あと、SUUMOが発表した「愛されている街ランキング」を見ると、実は自由が丘よりも緑ヶ丘や奥沢、下北より東北沢の方が住民満足度が高いということがわかったんです。これから中古物件を買う人たちに注目して欲しいのは、人気駅の隣駅の駅近中古は狙い目ということ。
「住民に愛されている街ランキング2020」(SUUMO調べ)より
田形:人気駅の隣駅!そのメリットは…?
池本:コロナ禍を経て、街にいる時間が長くなってくるこれからの時代、街に知り合いが多いってすごい価値だと思うんですよね。各駅停車の駅はその街の住民しか降りないし、近くの店にもその街の人しかいないから、仲間がつくりやすい特性があって。でも隣町の商業施設が普段使いができるわけだから、中古を買う人にとっては「人気駅の隣町の各駅停車駅」が狙い目じゃない?とよく言ってますね。
田形:なんだかちょっと、ドキドキしてきちゃいました!
千葉:そういうことか〜。すごくいいご意見が聞けました!
田形:「中古を買ってリノベーション」の資産価値が、今後高まっていきそうで楽しみです!今日は、とても勉強になるお話を本当にありがとうございました!
池本:ありがとうございました!
※今回のゲストプロフィール
池本 洋一(いけもと・よういち)さん
1995年に株式会社リクルート入社。住宅情報誌の編集、広告に携わったのち、住宅情報タウンズ編集長などを経て、2011年より現職。住まいの専門家としてテレビ・新聞・雑誌などのメディア出演、講演、執筆を行う。
会場を飽きさせないトークで「家さがし論」「街づくり論」「賃貸経営論」を題材に年間70本以上を行い、取材も編集長自らが実践し、全国を飛び回っている。
また、不動産情報サイト事業者連絡協議会 監事、国土交通省の既存住宅市場活性化ラウンドテーブル委員、働き方改革に伴う不動産の在り方検討会委員、ほか経済産業省、環境省、内閣官房などで各種の委員を歴任している。
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